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積ん読・乱読・熟読日記5 浅田次郎著「ラブレター」

 08.12.30
 浅田次郎さんの『鉄道員(ぽっぽや)』(集英社文庫 2000年)の中に収められた短編小説。
 裏ビデオ屋の雇われ店長など、歌舞伎町の危ない仕事で食いつなぐ高野吾郎は、金のために見ず知らずの中国人康白蘭(カンパイラン)の戸籍上の夫となった。 
 その彼女が病気で死に、吾郎は会ったことのない妻の遺体を引き取りに千葉県の海辺の町のモーテルに向かう。そこで彼は白蘭が死ぬ間際にしたためた自分あての手紙を目にする。
 手紙では、まず、写真でしか見たことのない「夫」吾郎への感謝の念が、愛情に変わっていった下りが淡々と綴られる。 
 そして「私が死んだら、吾郎さん会いに来てくれますか。もし会えたなら、お願いひとつだけ。私を吾郎さんのお墓に入れてくれますか。吾郎さんのお嫁さんのまま死んでもいいですか。甘えてごめんなさい。でも私のお願いこのひとつだけです」と続き、「心から愛しています世界中の誰よりも。吾郎さん吾郎さん吾郎さん吾郎さん吾郎さん吾郎さん吾郎さん吾郎さん吾郎さん。再見。さよなら」と結ばれる。
 日本で、そしておそらく本国でも薄幸だったであろう白蘭。書類上だけとはいえ「妻」として迎えてくれた「夫」の「やさしさ」を唯一のよるべにして「死ぬのはこわいけど痛いけどくるしいけどがまんします。お願いきいてください」と哀願して死んでいった白蘭…。
 文庫本で35ページに過ぎないこの短い小説を、私は流れる涙を抑えることなしに読み終えることができなかった。「鉄道員(ぽっぽや)」もいい。しかし、浅田さんの小説をどれか一つあげろと言われれば、ためらうことなく私は「ラブレター」を選ぶ(もっとも浅田さんの作品をすべて読んだわけではないが)。
 ちなみに私が今まで涙した小説は、「ラブレター」と三浦綾子の「母」、そして森鴎外の「山椒大夫」、この3編だけである(昨年12/16付ブログ参照)。

by takeshi_yamagen | 2008-12-30 00:08 | 山元のすべらない話  

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