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私たちに景観を壊す権利があるのだろうか  ー鞆の浦埋め立て問題に思うー

 09.10.2
「わぁ、江戸時代のテーマパークや」
 丸いこじんまりした湾を縁取るように木造建築が連なる景観に、私は思わずそうつぶやいていました。5年前、広島県福山市鞆の浦を訪ね、高台にある歴史民俗資料館から眼下を眺めた時のことです。
 そんな強い印象もあって、鞆の浦の埋め立て計画を巡る動向を私は注意深く見守ってきました。
 県や市が挙げている埋め立て理由の一つに交通渋滞解消がありましたが、少なくとも観光客のそれは街の中心部に車を入らせない郊外駐車場の設置などでかなりは解消できると感じました(実際私も街の北東のはずれでバスを降りました)。  
 その観光客誘致のための駐車場つくりも埋め立て理由の一つになっていました。
 しかし、肝心の鞆の浦の景観をだいなしにしてしまって果たして観光客が増えるだろうか。確かに少し立ち寄る程度の客は一時的には増えるかもしれないけれど、おそらく何度も訪れようと思う観光客はいなくなるだろうと言うのが私の意見です(少なくとも私はもう行かない)。
 このように、現在、県や市が主張する埋め立ての理由は成り立たないか、他の方策で解決できるものであると、私は自らの体験も含めてずっと思ってきました。 
 さて、この県と市が進める埋め立て・架橋事業をめぐり、反対する住民らが県知事を相手取り、埋め立て免許の交付の差し止めを求めた訴訟の判決が1日、広島地裁でありました。能勢顕男裁判長は「鞆の浦は国民の財産で、免許が交付されれば、住民が日常的に恩恵を受けている景観利益について重大な損害が生じる恐れがある」と原告の主張を全面的に認め、知事に免許を交付しないよう命じました。景観利益のために公共事業を事前に差し止める画期的な判決です。判決文を読むとかなり私の思いとも重なっており、嬉しく思いました。
 そもそも、私は思う。
 大伴家持が万葉集に詠み、足利尊氏が幕府成立のきっかけとなった院宣を受け取り、信長に追われた足利義昭が幕府再興を期し(「足利(室町幕府)は鞆で興り鞆で滅びた」と言われる)、さらに幕末には坂本竜馬が身を潜めた鞆の浦、まさに日本史を彩る面々が千数百年守り続けたその鞆の浦の景観を改変してしまう権利が、果たして21世紀に生きる人間に与えられているのだろうかと。 

by takeshi_yamagen | 2009-10-02 11:19 | 歴 史 夜 話  

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