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あなたの傍に生まれ変わる―、何度でも、何度でも…、 ―佐藤正午「月の満ち欠け」を読んで― 

 17.8.30
 佐藤正午さんの直木賞受賞作「月の満ち欠け」を昨日書いた缶貯金の一部を使って購入。なんか心に引っかかって「早く読みたいなぁ」と思っていた本で、一気に読了しました。ちなみに直木賞を取った作品を文庫本ではなく単行本で買ったのは宮本輝さんの「蛍川」を高校時代に買って以来40年ぶりのこと(結構文学的にはマセガキだったようです)。
 愛するあなたをこの世に残して逝った人間は、もう一度逢いたくて、秘密を話したくて、声を聞きたくて、あなたの傍に生まれ変わる、そしてシグナルを送る―、何度でも、何度でも、月が満ちて、欠けるように…。
 絶対にありえない話です。「でも、ちょっと待てよ…」と思い当たる経験が誰にも一つや二つあるのではないか、と思わしめる小説です。実は私にも秘密を仄めかしながら、そしてささやかな希望を語りながら「85歳でまた会おう」という言葉を残して逝ってしまった友がいます。年老いてからふっと傍らに会いに来てくれるのでしょうか。
 作者の佐藤正午さんは「作家の力量は嘘を本当に見せること」(「しんぶん赤旗」17/8/28付)と話しておられますが、さらに進んで佐藤さんは「嘘を心地よく信じさせること」に成功しているのではないでしょうか。それは希望と救いに繋がっていく嘘でもあります。

by takeshi_yamagen | 2017-08-30 13:03 | 積ん読・乱読・熟読日記  

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