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悲しみ特急「日本海」

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 夕暮れの大阪駅のホームを後にして、列車はゆっくりと動き出す。
 決して広いとはいえない寝台が今日一夜限りの僕の住処、上着をハンガーにかけ、荷物を足元に寄せて、ちょこっと作った空間に、ついさっきキオスクで買い込んだ弁当やお酒、つまみを広げ、さっそく一人だけの酒盛りを始める。
 ほろ酔いかげんになったところで、明日その地を踏むであろう旅先のガイドブックや司馬遼太郎の「街道をゆく」なんかに目を通す。それなりに読んできたつもりだったのに、改めて新たな発見があったりして、あわててバッグから地図を取り出して書き込みをいれたりする。
 ふと、窓に目をやると、いつも間にかどっぷり日が暮れてしまっていた。「なんにも見えない「景色」を見て、なにが楽しいの」などと妻は言うけれど、この暗い景色と列車のこぎみよい振動が、明日見るであろう旅先の景色への思いをいやがうえにもかきたてるのだ。
 それに、線路わきの飲み屋の赤ちょうちんが近くをあっと言う間に通り過ぎたり、遠くに民家の灯りがゆっくり右から左に移動していったり、運が良ければ沖合いの船の灯りがちらちら見えたりして、夜汽車の景色は決してなんにも見えないわけではなく、言われるほど単調で退屈なものでもありません。
 あぁ、あの赤ちょうちんの中では上司の文句を言いながら酔いつぶれたサラリーマンが女将さんから「もう看板ですよ」なんて言われているのかなぁ、あの灯りのおうちじゃ、思わしくない子どもの成績表を前に、母親が「お父さんもなんか言ってやってください」とでも嘆いているのだろう…、そんなことをつらつら思っているうちに、僕はいつも心地よい眠りに落ちて行くのである。

 3月17日のダイヤ改正で大阪と青森を結ぶ特急「日本海」、同じく新潟を結ぶ急行「きたぐに」がともに定期運転を終えるとのこと。
 あぁ、あの珠玉の時間を過ごすことはもうできないのですね。残念でなりません(08/2/17、09/2/19、10/9/21、11/7/20他付ブログ参照)。

by takeshi_yamagen | 2012-03-12 23:58 | 日本たびたびまた旅日記  

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